1989 WM-DD9
WM-DD9は、ディスクドライブ機構を採用した再生専用Walkmanである。
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1989年のSonyは、1980年代後半の勢いがそのまま形になっていた時期にあった。背景にあったのは、日本の景気拡大だけではない。社内にあった強い自信と拡張志向も大きい。この年、SonyはColumbia Picturesの買収を完了し、ハードウェア企業の枠を越えた発想をさらに明確にした。家電は単体の商品ではなくなりつつあり、ソフトとハードの両方を含む大きな戦略の一部として扱われていた。
ポータブルオーディオでも、その自信は設計思想にそのまま表れている。カセットは、もう解決すべき課題ではなかった。磨き上げるべき完成形に近いプラットフォームだった。この時期のWalkmanは、コスト効率よりも、機構精度、素材感、仕上げの密度に重心が置かれていた。一方でDiscmanも、まだ実験的な存在ではなく、据置CDプレーヤーの発想を持ち込みながら、ポータブルの形に圧縮した高級機として押し上げられていた。
1989年が特別に見えるのは、ひとつの方式が別の方式を押しのけた年だからではない。Sonyがまだ両方の方式を同時に頂点まで引き上げようとしていた年だからだ。カセットとCDは、まだ正面から競合していたわけではない。どちらにも同じだけの本気が注がれていた。その均衡は長く続かなかったからこそ、1989年は移行期というより、すべてを同時に完成させようとしていた最後期のひとつに見えてくる。